「気」について

漢方の世界では、診断をするには、「証」を決定する必要があり、これを「弁証」といいます。 弁証に基づき、相応する治療方針を確定し、これにしたがって具体的な治療を施します。 その弁証の一つに、日本漢方では、気血水論、中医学では、気血津液弁証という理論があります。 気、血、水は、生体内の臓腑、経絡、組織、器官などを巡り、人体の生理活動を担っており、 この三要素によって生命活動が維持されています。 これらの作用は、個々単独でなされるのではなく、相互に影響しあい、 生体内で合体融合して機能する場合が多くあります。 気は、エネルギー的存在で、新陳代謝を高め、熱を作り出すので「陽気」といい、 血・水は、気の過剰な亢進を抑制するので「陰液」ともいいます。 血は体を養う材料で、水は中医学では、津液といい、体を潤す材料です。 陽気と陰液が十分存在し、かつバランスがとれているのが正常な状態です。

今回は、気についてお話します。気には実体がないので、 捉えどころがないように思われますが、「元気」「気をもむ」「気を遣う」など現在使われている言葉が、 実は漢方が由来です。気の作用は、

@栄養作用−血液中に分布しており、全身に栄養を供給する−この気を栄気と言います。

A新陳代謝促進作用(温煦作用)−全身や各組織を温める作用

B新陳代謝により温め、巡らせる作用(推動作用、この作用は、成長、発育、生理活動にも関与。)

C自然治癒能力を発揮させる作用−西洋医学でいう免疫作用に相当し、 外邪の侵入を防ぐ作用(防御作用)。この作用をする気を衛気と言います。

D気化作用「変化させる作用」−気は、気、血、津液を相互に変化させます。 消化吸収や合成、呼吸によるガス交換などの機能を意味しています。

E固摂作用「調節作用」−血液などの体液を漏出するのを防ぐ作用があります。

気の病証について

日本語における「病気」とは、文字のごとく、気が病むということであって、 体が病むという「病体」という言葉は存在しておりません。体だけが病むのでなく、 むしろ気の存在を重視したことが「病気」という言葉を生み出させたのではないかと思われます。 気の病態には、気虚、気滞、気逆、気陥があります。

@気虚とは、気の量的な不足と作用の不足を言います。 原因は、補給の不足[老化、消化機能の低下、肺機能の低下]、消耗過多[房室過多=性生活の不摂生]があります。 症状は、元気がない、疲れやすい、味がない、食欲がない、 声に力がない、風邪を引きやすい、寒がる、汗をかきやすい、息切れ、脈の結滞、耳鳴り、ふらつきなどです。 治療法は、補気薬[気を補う薬=全身の代謝や機能を促進させる薬]の 人参(八百屋さんで売られているニンジンではなく、朝鮮人参のこと)、黄耆、炙甘草、白朮などと、 消化吸収を促進する、茯苓、山薬(ヤマイモ)、大棗(なつめ)などを配合します。 代表処方は、四君子湯や補中益気湯などです。 蜂子には、中焦に作用し、気を益して、免疫を高めたり、 老いにくくする不老効果があることが、「神農本草経」に記載されています。 すなわち蜂子には、気虚の改善効果があると2000年以上も前から認められております。 私の病院の患者さんにも同様の気虚の改善効果がみられております。 気には、免疫に関与する衛気がありますが、風邪を引きやすい人は、衛気不足(=免疫機能の低下)が考えられます。 免疫機能の中で癌細胞を攻撃するNK細胞がありますが、 その細胞の働きをNK活性といいます。NK活性が低ければ、癌に対する免疫が低下していることが考えられます。 今年のBUNBUN通信夏号で、今年の東洋医学会で発表した演題を掲載しましたが、 演題の内容は、蜂子が低下したNK活性を改善させたという内容でした。 これは、蜂子には、気虚に対する改善効果があることを科学的にNK活性を用いて証明したことになります。

A気滞とは、気の機能の停滞のことです。主に自律神経の緊張や異常亢進の症候です。 原因は、飲食の不摂生、精神的ストレスなどです。 症状は、痞え、疼痛、憂鬱感、怒りやすい、上腹部の膨満感や痛みなどです。 治療法は、理気(気を巡らせる)薬を用います。 理気剤の、半夏、厚朴、陳皮や疎肝解鬱(肝の気の巡りをよくする)をする柴胡、香附子などを用います。 方剤としては、半夏厚朴湯、二陳湯や四逆散などがあります。

B気逆とは、気には、流れる方向が決まっており、下降するはずの気が上に逆流する現象です。 原因は、風邪などの外邪の侵入や食べ過ぎ、ストレス、怒りなどです。 症状は、咳嗽(せき)、げっぷ、しゃっくり、悪心、興奮、目の充血、眩暈(めまい)などです。 治療法は、杏仁(アンズの種)、半夏、生姜、干姜などを用います。 エキス剤には、小青龍湯、麻杏甘石湯、小半夏加茯苓湯、二陳湯、龍胆潟肝湯などがあります。

C気陥とは、脾気(脾の気、脾とは、西洋医学の脾臓とは異なり、 消化吸収機能を主り、気を産み出すのに必要な臓器)は、 肺に至るまで上昇性であるべきものが、パワーダウンして、上昇できない状態をいい、 胃下垂、脱肛、子宮下垂などの症候を呈します。原因は、慢性の消化器系疾患などによって生じ、気虚を伴います。 治療法は、柴胡、升麻、人参などで、代表的なエキス製剤に補中益気湯があります。

漢方医学の気については、西洋医学では説明できないので、今回取り上げた気の病については、 西洋医学では治せないケースがよくあります。そのような患者さんの症状が、 漢方薬によって、改善されることは、しばしば見受けられます。

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