「心」の病証と治療

 「心」は、五行では、「火」に属し、中医学では、「心」といえば、西洋医学でいう心臓と全く同一の意味ではなく、西洋医学の心臓の機能としての循環の原動力としてのポンプ役以外に意識や精神活動、つまり西洋医学で言えば、脳の働きに関係する部分も「心」の働きに関与しています。

心の陰と陽

 心陽とは、心臓の働き「心臓のポンプ作用」や「大脳の活動」を意味し、心の陽が不足すると、身体が温煦作用(温める作用)を受けられなくなり、体が冷えたり、心臓の機能が低下した心不全状態になったり、血行障害が起こります。さらに心神不足となり、精神・意識・思惟活動が減退し、抑制状態になりやすくなります。症状としては、精神疲労、精神不振、反応低下、健忘、計算力の低下、傾眠などが現れます。一方心陽の亢進は、心火亢進となり、動悸、不眠、多夢などの興奮状態になったり、肝気を煽り、前回で触れた肝火上炎などの病態に陥ります。心の陽気の勢いを維持するためには、その燃料としての陰が必要ですが、これを「心陰」あるいは「心血」と言います。燃料としての心陰が不足すると、動悸や不整脈をきたします。

 心の陰は、燃料としての意味合い以外に心の平静さを表しております。したがって心の陰が不足すると、不安感や煩躁感(胸中の熱と不安で手足を固定しておけない状態)に至り、睡眠障害をもたらします。すなわち心の陰は、精神活動のゆったりした悠々とした状態を意味しております。


心腎相交(しんじんそうこう)

 心は、陽の代表として火の性質を持ち、腎は、陰の代表として水の性質を持っていて、互いに反対の性質を持つと同時に互いを育てる関係になっていることを心腎相交と言います。この働きに支障を来すと、腎陰(生体の各臓器・組織器官を滋養・滋潤する作用)が心陰を補えず、心陰が不足して、不眠、不安感といった心陽亢進の症状になります。これを心腎不交といいます。

治 療

心気虚(しんききょ)

(心気の不足)動悸、息切れ、全身倦怠感、精神疲労、疲れるとこれらの症状が増強するなどの症状が出現します。生薬としては、心気を補う、遠志、五味子、茯苓(茯神)、炙甘草、人参、黄耆、エキス剤としては、人参養栄湯、炙甘草湯を用います。

心陽虚(しんようきょ)

(心陽の不足)心気虚の症状に四肢厥冷(手足の冷え)、自汗(不快な汗)など冷えの症状が加わります。生薬としては、桂枝、桂皮、附子、薤白(ラッキョウ)、乾姜、エキス剤としては、桂枝加朮附湯、八味丸、柴胡桂枝乾姜湯を用います。

心陰虚(しんいんきょ)

(心陰の不足)心気の不足症状に虚熱症状が伴います。つまり動悸、不眠などの心気虚の症状に、手足や顔面の熱感、盗汗(寝汗)、舌の先端が赤くなります。生薬としては、竜眼肉、酸棗仁、柏子仁、丹参、百合(ユリ)、麦門冬、亀板、小麦、阿膠、エキス剤は、酸棗仁湯、甘麦大棗湯、天王補心丹を用います。

心血虚(しんけつきょ)

心血が不足し、心神を滋養できないと、意識が散漫となったり、忘れ易くなったり、動悸や不安を生じ、驚きやすくなったり、頭がフラフラして眩暈を生じます。不眠、多夢となります。舌は淡となります。生薬は、熟地黄、丹参、当帰、芍薬、紫河車(胎盤)、エキス剤としては、四物湯、帰脾湯を用います。

心火上炎(しんかじょうえん)

心に熱が入り、血熱を発生し、顔面が赤く、のぼせて、心煩し、昼はせっかちになり、夜は不眠になり、口が乾燥したり(水は飲みたくない)、口内炎を生じます。女性では、月経の周期が早くなり、量も多くなります。生薬としては、犀角、牛黄、黄連、黄 、黄柏、山梔子、木通、生地黄、牡丹皮、大黄、連翹などで、エキス剤は、黄連解毒湯、加味帰脾湯、半夏瀉心湯、清心蓮子飲、龍胆瀉肝湯を用います。

心血瘀阻(しんけつおそ)

心血の巡りが悪くなり、心を養うことができなくなり、動悸、不安を生じます。血 (血の巡りが悪い)から気滞を生じ、胸苦しくなったり、胸痛したりします。エキス製剤としては、血府逐 湯、 楼薤白半夏湯を用います。

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