「メタボリックシンドローム」について

メタボリックシンドロームの概念

動脈硬化の成因は、今までは、コレステロールを中心に検討されてきましたが、 1980年代の終わり頃から、”beyond cholesterol”という概念で、 コレステロール値に関係なく高血糖、脂質の異常、さらに 高血圧があるというような、 複数のリスク・ファクター(危険因子)が集積された状態、 つまりマルチリスクファクター症候群いう病態が 動脈硬化の高い危険因子として重要だと提唱されました。 1988年Reaven(リーヴェン)は、動脈硬化性疾患が好発するハイリスクグループ(高危険群)をシンドロームXと命名し、 その後Kaplan(カプラン)が死の四重奏、松沢らは、内臓脂肪症候群を提唱しました。 2001年には、 National Cholesterol Education Programによって メタボリックシンドロームが提唱されました。 腹囲が男性102cm、女性88cm以上としたのに対し、 2005年4月に我が国の内科系8学会によって発表されたメタボリックシンドロームの診断基準では、 男性85cm以上、女性90cm以上が必須項目で、脂質異常、血圧高値、耐糖能障害の3項目のうち 2項目以上を満たすものとしました。

メタボリックシンドロームは、軽度の血圧高値や軽度の糖・脂質代謝異常の集積した病態を重視しており、 軽症でもこれらの病態が重複すると、リスクが高くなると云う事を示す疾患です。 1995年から3年間勤労者を対象とした厚生労働省の研究で明らかになったことですが、 高トリグリセライド血症、耐糖能異常、高血圧、肥満のうち、3個以上合併した場合、 心筋梗塞、狭心症といった冠動脈疾患の危険率がコントロールの30倍以上にも達したのでした。

脂肪細胞について

脂肪細胞は、もっぱら飢餓に備えて、 細胞内に脂肪を蓄えるエネルギー貯蔵庫としての役割を成していると考えられてきました。 脂肪細胞は、最近になり、脂肪細胞の生物学的研究より脂肪細胞から生理活性物質である蛋白質を分泌することがわかるようになってきました。 それらの分泌蛋白質を総称してアディポサイトカインといいます。 アディポサイトカインには、善玉と悪玉に分けられますが、善玉には、ただ一つアディポネクティンがあり、 インシュリンの働きを助けるインシュリン抵抗性改善作用があり、動脈硬化を予防する抗動脈硬化作用があります。

悪玉アディポサイトカインには、TNF-αやアンギオテンシノーゲンなどがあり、 インシュリンの働きを妨害するインシュリン抵抗性を有し、血糖を上げたり、 動脈硬化を促進させたり、血圧を上げたりする作用などを有しています。 アディポサイトカインではありませんが、同様に脂肪細胞から分泌される遊離脂肪酸は、 悪玉アディポサイトカインと同様にインシュリン抵抗性を増悪させ、血糖を上げたり、 動脈硬化を促進する作用を有します。 内臓脂肪が増加した肥満の状態では、脂肪細胞が、悪玉アディポサイトカインや遊離脂肪酸の分泌が増大し、 善玉アディポサイトカインのアディポネクティンの分泌は減り、動脈硬化を促進します。

今までは、肥満になると、動脈硬化を促進させ、 心筋梗塞になりやすいと言われてきましたが、詳しい理由がわかりませんでした。 脂肪細胞の生物学的研究の進歩により肥満によって分泌亢進した悪玉アディポサイトカインや 遊離脂肪酸が動脈硬化を促進することがわかり、 肥満が動脈硬化を生むメカニズムが詳細にわかるようになりました。

メタボリックドミノ

メタボリックドミノから内臓脂肪が高脂血症(中性脂肪が多い高トリグリセライド血症)、 糖尿病、高血圧を誘発させ、動脈硬化を促進させることが、よく理解できると思います。

肥満を伴った糖尿病の治療

インシュリンは、細胞内にブドウ糖の取り込みを促進したり、肝臓でのブドウ糖の取り込みを促進して、 血糖を下げる作用を有しておりますが、過食と運動不足によりインシュリンが過剰に分泌されると、 脂肪の合成を促進させます。すなわち高インシュリン血症が肥満をもたらすのです。 肥満を伴った糖尿病に血糖降下剤のSU剤を用いると、SU剤のインシュリン分泌は、 長時間持続するため、空腹時のインシュリンレベルを上げ易くし、高インシュリン血症をもたらし易くします。 高インシュリン血症が肥満をもたらしてしまうため、内臓肥満を助長し、 インシュリン抵抗性をもたらし、インシュリンの働きを抑え、 血糖コントロールを良好に保つのが難しくなりやすくなります。 肥満を伴った糖尿病に対しては、肥満を助長させ易い短所を持った、 血糖値だけを下げるSU剤を用いるべきではありません。 メタボリック・ドミノの上流である肥満を解消する治療に目を向けて治療する必要があります。 糖質の吸収を抑えるα-グルコシダーゼ阻害薬や肝におけるインシュリン抵抗性を改善させて 肝からのブドウ糖の放出を抑えるビグアナイド剤を用いるべきです。 これらの薬剤で食後血糖コントロールが不十分な場合は、 インシュリン分泌パターンを改善するグリニド系インシュリン分泌促進薬を加えます。

メタボリックシンドロームにおける降圧剤の選択

血管拡張性β遮断薬、長時間作用型Ca拮抗薬、ACE(アンギオテンシン転換酵素)阻害薬、ARB(アンギオテンシン・受容体拮抗薬)もインシュリン抵抗性を改善する為、メタボリック・シンドロームの高血圧治療に最適です。

結論

内臓脂肪がある肥満の方には、高血圧、糖尿病、高トリグリセライド血症がたとえ軽度であっても、 それらが重積すると、高率に動脈硬化を促進するので、 肥満をもたらした生活習慣を是正することに重点を置いて、肥満を解消することが重要です。 さらにメタボリック・シンドロームの治療は、食事・運動療法も重要ですが、 高血圧治療や糖尿病治療に対し、インシュリン抵抗性を改善する薬剤 (例えば、糖尿病においては、α-グルコシダーゼ阻害薬やビグアナイド剤)を選択する必要があります。

診療案内

[月・火・木・金] 09:00〜17:00
[水] 09:00〜18:00
[土] 09:00〜12:00
[休診日] 日・祝日

お問い合わせ : 0125-74-2021